映画『インサイド・ヘッド』最新映画感想/ヨロコビとカナシミは表裏一体

映画情報


インサイド・ヘッド
(原題:Inside Out

インサイド・ヘッド ポスター.jpg
製作:2015年(アメリカ) ジャンル:アニメーション/ファンタジー/ファミリー
上映時間:94分
監督:ピート・ドクター
脚本:ピート・ドクター、メグ・レフォーヴ、ジョシュ・クーリー
音楽:マイケル・ジアッキノ
日本版主題歌:DREAMS COME TRUE(愛しのライリー)
声優(カッコ内は日本語版):エイミー・ポーラー(竹内結子)、フィリス・スミス(大竹しのぶ)、ルイス・ブラック(浦山迅)、ミンディ・カリング(小松由佳)、ビル・ヘイダー(落合弘治)、ケイトリン・ディアス(伊集院茉衣)、and more…


【インサイド・ヘッド】解説/あらすじ


ピクサー製作の、人間の感情を題材としたファンタジー・アニメーション映画。ミネソタからサンフランシスコに引っ越してきたことをきっかけに、不安に陥った11歳の女の子の頭の中にある5つの感情(ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカ)が衝突し、悪戦苦闘しながらも成長していく様子を描く。監督は『モンスターズ・インク』、『カールじいさんの空飛ぶ家』のピート・ドクター。


11歳の女の子ライリー(声:ケイトリン・ディアス/伊集院茉衣)の頭の中には、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカの5つの感情が存在していた。それぞれに大事な役割を担っていた5つの感情達だったが、カナシミの存在理由だけは誰にもわからなかった。ある日、パパ(カイル・マクラクラン/花輪英司)の仕事の都合で、住み慣れたミネソタからサンフランシスコに引っ越すことになってしまったライリーは、突然の環境の変化から不安定な状態に陥ってしまい、5つの感情達もトラブルを起こし、ライリーの中からヨロコビとカナシミだけが、感情を司る司令室から吸い出されてしまう。ライリーから幸せな気持ちを取り戻すべく、司令室に戻ろうと奮起するヨロコビだったのだが…。


【インサイド・ヘッド】映画感想/レビュー


‘ライリー、ライリー、こっち向いて’ってドリカムが主題歌を歌っているピクサーのアニメーション映画『インサイド・ヘッド』。頭の中とか感情とかという意味になりますね。ということで、この映画の主人公は感情。11歳の少女ライリーだけに限らず、殆ど誰の中にでもある感情。


いつも元気で明るくて前向きなヨロコビ(エイミー・ポーラー/竹内結子)と、常にどよーんと落ち込んでいて後ろ向きなカナシミ(フィリス・スミス/大竹しのぶ)が、ライリーの頭の中を冒険する傍ら、怒ってばかりいるイカリ(ルイス・ブラック/浦山迅)と、何事にも不快感を示すムカムカ(ミンディ・カリング/小松由佳)と、恐怖心の塊で思慮深いビビリ(ビル・ヘイダー/落合弘治)が、感情を司る司令室で悪戦苦闘するというお話が、中心となっている映画ですね。
インサイド・ヘッド ヨロコビ カナシミ.jpg


【監督の実体験に基づいている映画】


結論から言えば、これまたピクサーからとんでもない映画が生まれた!と思いましたね。アニメーションながら傑作です。
監督は『モンスターズ・インク』のピート・ドクターですが、『モンスターズ・インク』は子供の恐怖を吸ってエネルギーに変えるという話で、映画の中で、サリーとマイクが小さい子供の扱いがよくわからなくて、悪戦苦闘するという描写があります。
これは、監督自身が当時2歳の子を抱えてた経験から来ているらしいのですが、本作『インサイド・ヘッド』も、監督自身が実際に経験したことが元になっているみたいです。
私自身、今タイムリーに10歳とか11歳とかの女の子の親なので共感できるところが多々あったりするのですが、このくらいの歳の子って、多感で不安定だったりするんですよね。
インサイド・ヘッド ライリー.jpg


ピート・ドクター監督は、自身が実際にピクサーの仕事でミネソタから引っ越してきた際に自分の子供がライリーのような状態に陥って、カウンセラーに相談しに行って、『インサイド・ヘッド』の製作にあたっても、精神科医だとか心理学者だとか脳科学者だとかの話を聞きにいったみたいです。


【精神医学、心理学における人間の感情の原理】


ということでこの映画は、11歳の女の子に限らず、人間の殆ど誰もが持っている感情や心理の原理に則って作られている映画です。
誰にでもある感情ですが、その一つ一つについて、なんで必要なのか?とか当たり前すぎてあまり考えないかもしれません。そういうことを考えるきっかけをくれる映画であり、教えてくれる映画でもあります。
なので、そういうことを現在考える必要のない人、或いは当然のように思っていたり、自分も人も社会に対しても、ニヒリストのようにどこか冷めた目でみちゃってる人にとっては、どうでもイイ映画という風に映ってしまうかもしれません。
そして、この映画は子供向け、ファミリー向けという傾向にあるかもしれませんが、大人向けでもあり、現代社会に向けた警鐘のような映画でもあると思います。


ミネソタの田舎から、都会のサンフランシスコに引っ越したことで、ライリーは喜びと悲しみという感情を失ってしまうわけですが、この状態のライリーって、不安に陥り怒りと苛立ちと恐怖心が募った結果、周りの何事も認められなくなって、自分自身の感情から成り立つ人格や性格も封印して、次第に崩壊していっちゃいます。自我の崩壊音が鳴り響いておりますね。
その結果何が起こるかっていうと、自己防衛という人間に限らず動物の基本的な本能が全面に出てきて、終いには現実逃避がはじまります。


私自身は、それ自体は別にいいというか、そういう経験も必要だと思っています。それが悪いことだとは思わない(良いことだとも思いませんが)のですが、ここで喜び、或いは悲しみという感情が欠落してしまっていると、経験するどころか立ち直ることも不可能になっちゃいます。
ヨロコビちゃんの前向きなポジティブな性格は考えるまでもなく人間がよりよく生きるためには必要な感情だと思いますが、ここでカナシミちゃんの存在の必要性が、凄く丹念に描かれます。
映画の中でカナシミちゃんは、最初の方はどうしようもなく間抜けで、特にヨロコビちゃんの足をひっぱるような行動ばかりしていて、正直イライラするんですね。やっては駄目ということもやっちゃうし、凄く抑圧された感情として描かれるのがカナシミちゃんなのですが、こういう感情を、ひたすら前向きに前を向け!と言われるのは、不安な心にとっては非常にしんどいものになってしまう。


この辺のことは、少しでも心を痛めたことのある人、もっと言えば鬱病などに陥ったことにある人はわかると思うのですが、辛い時は辛いで居させてほしいし、泣きたい時は泣かせてほしいんですよね。
そういう気持ちもまた、自分自身の中に悲しみという感情を持っている人でなければ理解できない話しでもある。
だから悲しみは必要なんだと、悲しみに限らず、怒り、嫌悪、恐怖といったネガティブな感情や、勿論喜びなどのポジティブな感情、喜怒哀楽の全ては必要なんですよと、認めることの重要性を凄く優しい眼差しで教えてくれていますね。
インサイド・ヘッド カナシミ.jpg


【登場する感情の色にも意味がある】


ブルーは悲しみ(Sadness)の象徴のような色ですが、青には人の心を落ち着かせるという効果もあります。黄色のヨロコビちゃんは勿論明るさや喜び(Joy)の象徴だし、明るすぎても眩しくなっちゃう。赤は怒り(Anger)の反面熱い心や闘争心、ムカムカは緑で、これは嫌悪(Disgust)を意味している反面、自己を守る癒しや安全を意味していて、恐怖(Fear)の象徴であるビビリの紫は思慮深い存在です。この感情達は、それぞれの欠点を補い合う存在でもあります。


【Inside Out/表裏一体】


登場する感情達のイメージカラーにもそれぞれ意味があるのですが、この映画、邦題は『インサイド・ヘッド』ですが、原題は『Inside Out(インサイド・アウト)』で、裏返しとか、裏腹とかそういう意味です。
つまり、人間の感情を描いては勿論いるのですが、その感情が表裏一体だということの意味を考えながら観るべき映画でもあるんですね。
例えば、喜びと悲しみという感情は、全くの真逆のような感情でありながらも表裏一体で、悲しみがなければ喜びはないし、その逆も勿論存在しえません。


感情というものは、人格や性格を形成しているものだとこの映画の中でも描かれていますが、その感情が作り上げた人格や性格、ヒトがヒトであることの大半を決定づける最重要ファクターですが、これを人そのものとした場合、感情がその裏の感情を持ち合わせていないと存在し得ないように、人もまた単一の個人、独りでは存在し得ない、生きていけないということを描いているように感じます。
感情というのは、劇中ライリーだけじゃなくてパパやママやぶつかった男の子の頭の中を覗いたように、誰にでも存在していて、それぞれに人格を形成しています。そういった周りの人たちを認めることも重要。
そういう哲学的なことを描いている映画でもあって、非常に深いんですよね。


深いで言えば、潜在意識とかいう言葉も出てきます。これって実は『インサイド・ヘッド』の本編の前に、同時上映で短編映画の『南の島のラブソング』というアニメーション映画が流れるのですが、この短編の主人公が、ハワイ島の活火山の山なんです。この火山、長い時間を経て、大部分が海の底に沈んで顔だけ出して歌っているのですが、フロイトと並んで著名な心理学者のユングによる潜在意識の表現なのではないかと思います。
ユングは人間の潜在意識を氷山に例えて、人間が普段意識している顕在意識は、氷山で例えれば海の上に顔を出している顔の一部分にしかすぎないとして、海に沈んでいる大部分は、生きていく上で個人的に蓄積されていった個人的無意識と、人類の共通にある無意識領域でなる集合的無意識の構築から成された潜在意識だとしました。


【トラウマという潜在意識を喚起させる】


短編映画である『南の島のラブソング』では、この潜在意識の象徴であるでっかい男の山がずーっと恋の歌を歌っていて、いずれ沈むのですが、そのラブソングを海の底で聞いていた女性の小さい山が噴火して、最終的にが沈んでしまったでっかい男の山も噴火して、二つの山と山の愛は成就して島になった。みたいな話なのですが、『インサイド・ヘッド』は、ヨロコビちゃんとカナシミちゃんが、ライリーが心の奥底にしまっていた潜在意識をかき回して、夢としてトラウマを呼び起こしちゃいます。
夢とかトラウマとか、思いっきりフロイト的なのですが、カナシミちゃんを抑圧してヨロコビちゃんが色々奮闘したところ、カナシミちゃんが爆発しちゃって、結果トラウマを呼び起こされたライリーも爆発するのですが、ここでも悲しい感情を抑え込みすぎては駄目ということが描かれていますね。
と同時に、トラウマという潜在意識が呼び起こされて爆発するんだけれど、同時にヨロコビとカナシミは感情の司令室、コントロールルームに帰ることができますね。
帰れることができたのは潜在意識だけじゃなくて、イマジネーション(想像力)とか色々重ね合わさった結果なのですが、これはそれこそ、フロイトが実践した心理療法と重なるところでもあります。


そういうことを予め理解している必要はないと思いますが、どの感情にしろ、どんな記憶や思い出にしろ、必要のないものなんて何もないんだって言ってる映画です。この映画では5つの感情をベースに描いていますが、人間自身の社会生活においても、同じことを伝えてる映画なんじゃないかなと私は思います。
本当に素敵な映画でございました。


尚、配給が同じディズニーということもあって、『インサイド・ヘッド』の登場人物達が本編の前に、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』を観ている。という予告を観ることができます。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/422598849
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

インサイド・ヘッド
Excerpt: 住み慣れた大好きなミネソタから、友達もいない見知らぬ街サンフランシスコへ。 突然の引っ越しで11才の少女ライリーの心は不安定になり、ヨロコビとカナシミの感情が行方不明になってしまった! ライリーの幸せ..
Weblog: 象のロケット
Tracked: 2015-07-20 09:12

映画「インサイド・ヘッド(2D・日本語吹替版)」 感想と採点 ※ネタバレなし
Excerpt: 映画 『インサイド・ヘッド(2D・日本語吹替版』 (公式)を昨日、劇場鑑賞。採点は飽くまで本編のみの評価(理由は本文にて)で ★★★★ ☆ (5点満点で4点)。100点満点なら80点に..
Weblog: ディレクターの目線blog@FC2
Tracked: 2015-07-22 11:39

インサイド・ヘッド(日本語吹替版)  監督/ピート・ドクター
Excerpt: 【声の出演】  竹内 結子 (ヨロコビ)  大竹 しのぶ(カナシミ)  佐藤 二朗 (ビンボン) 【ストーリー】 田舎町に暮らす11歳の女の子ライリーは、父親の仕事の影響で都会のサンフランシスコに..
Weblog: 西京極 紫の館
Tracked: 2015-07-23 00:53

インサイド・ヘッド
Excerpt: 『カールじいさんの空飛ぶ家』のピート・ドクター監督が創り上げたピクサーの最新アニメです。 感情を司る頭の中のキャラクターが冒険するって面白そうだなあと楽しみにしていました。 ヨロコビとカナシミの冒険は..
Weblog: とりあえず、コメントです
Tracked: 2015-07-25 21:12

映画:インサイドヘッド Inside Out SFが豊作な今年、新たに登場した巨星(笑)
Excerpt: 日本映画で同じようなバターンの「脳内ポイズンベリー」が先行し、話題に。 で、真打ち? ビクサーバージョン登場、で早々に観てきた。 その感想は… まず、つかみはOK。 というのは出演陣が(写真) ..
Weblog: 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜
Tracked: 2015-07-26 07:07

『インサイド・ヘッド(吹替版)』
Excerpt: □作品オフィシャルサイト 「インサイド・ヘッド」 □監督 ピート・ドクター、ロニー・デル・カルメン□脚本 ピート・ドクター□キャスト(声の出演) 竹内結子、大竹しのぶ、浦山迅、小松由佳、   ..
Weblog: 京の昼寝〜♪
Tracked: 2015-08-02 08:28

インサイド・ヘッド
Excerpt:  『インサイド・ヘッド』をTOHOシネマズ渋谷で見てきました。 (1)本作は、『脳内ポイズンベリー』を見た際に、アメリカでも類似の映画があるとして取り上げられていたことから、興味を持っていました。 ..
Weblog: 映画的・絵画的・音楽的
Tracked: 2015-08-07 07:02

「インサイド・ヘッド」
Excerpt: 「もうそんな年じゃないから」と言う息子を半ば強引に連れ出して鑑賞。確かに主役の少女ライリーとほぼ同世代の息子にとっては、「もうそんな年じゃない」感が満載なのかも。背伸びのジェネレーションであるにも関わ..
Weblog: ここなつ映画レビュー
Tracked: 2015-08-13 12:59

感情たちが揺れ動く
Excerpt: 28日のことですが、映画「インサイド・ヘッド」を鑑賞しました。 少女ライリー、彼女の頭の中では「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」の5つの感情が。 ある時 誤ってヨロコビとカナシ..
Weblog: 笑う社会人の生活
Tracked: 2015-08-26 21:28